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着物を愛した母の想いを受け継ぐ

私は幼い頃に父を亡くしましたが、子供三人を一人で立派に育ててくれた母は、着物をこよなく愛していました。

当時、私には価値がわからなかった成人式の振袖も母は仕立ててくれました。

正直、数回しか着ないかもしれない振袖にローンを組んでまで仕立てる母の気持ちがよくわかりませんでした。母は着物を自分で着ることはなかったものの、将来の私のために、と数枚着物を仕立ててくれていました。若かった私は訪問着や小紋等の違いもわからず「着物とかいつ着るの?」と思わずにはいれませんでした。

月日が経ち母が肺がんに冒され、余命宣告を受けた後のことです。

母が病院に長期的に入院している間、私たち家族が母の身の回りの整理をしていました。長女が手伝ってくれていた時に、これから先に待ち受けている片付けに頭を悩ませていた私が「着物はどうやって処分しようかな」と漏らすと、長女に「着物は絶対に捨てるな」と怒られました。

長女によると、余命宣告を受けて二年間のうち母は終活と身の回りの整理をしてきたので、ここにある着物は私の母が捨てられなかったものだからと。

私が長女に「着物を残しておいてどうするの?着るつもりなの?」と尋ねると、長女は頷いて「いつになるかはわからないけど」と言うのです。

このやりとりが心に引っかかり、私は次女の成人式に母が仕立ててくれた振袖を自分で着付けるため、着物教室に通い始めました。着付けを学ぶうちに、母が仕立ててくれた着物の価値がやっと理解できるようになったのです。

できれば母が生きている間に仕立ててくれた着物を着付けられれば良かったのですが、恥ずかしながから着物の魅力を遅くても汲み取れたことに感謝しております。

これからは、着付けの楽しさや着物の魅力を、より多くの人に知ってもらえるよう、日々精進していきたいと思っています。母の想いを受け継ぎ、着物の素晴らしさを伝えていくのが、私の使命だと考えています。